設計行脚

2017.11.21

伽藍設計は「匠明」に倣うのではなく、自分の感性を磨くことが肝要

Category: 只今設計中

大手企業から和風建築のデザイン協力を依頼されました。

工事と設計図の作成は、スーパーゼネコンが担当します。

 
弊社のデザインに基づき設計図が描かれていきます。

「化粧垂木の寸法が大きすぎませんか」ゼネコンの設計部から質問を受けました。

「この規模の建物なら、75mm×90mm@250は必要だと思いますが・・」

「いや、50mm×60mm@300でいいと思います」

「そんな寸法ではダメだ!」思わず声を荒げてしまいました。

「匠明の木割りに従えば、そうなりますよ」
正直、この言葉には呆れました。彼は、社寺設計のトップです。


右上の写真は、「匠明」です。

右下の写真は、垂木90mm×75mm@250と50mm×60mm@300の違いです。

 

私は、寺院伽藍の設計をほぼ独学で覚えました。大学を卒業して入社した設計事務所は、寺院設計の実績が多かったとはいえ、当時は既に、詳しい方が在籍していませんでした。

仕方がないので、事務所の書庫から図面を引っ張り出し、見学して回りました。しかし、鉄筋コンクリート造の寺院が多く、物足りなさを感じました。

そこで、文化財の修理報告書を入手し、図面を片手に国宝や重要文化財の伽藍を見て回るようになりました。目的は、2次元で描かれた図面の建物が3次元ではどう見えるのかを目に焼き付けること。そして、柱と垂木のバランス、軒反りの大きさと見え方などを体得していくことでした。

 
こんな経験をしました。

尾道市の浄土寺本堂と福山市の明王院本堂の図面を入手して見ると、間取りはほぼ同じ、屋根も入母屋造りです。建築された時代も1320年代でほぼ同じ。

ところが・・・
屋根の勾配は、浄土寺の引き渡し勾配が6寸で明王院は7寸と全く違う。とても興味が湧きました。

是非、屋根勾配の違いを体感してみたいと思い、現地を訪ねました。

本堂の前に立つと、ふたつの本堂は、明らかに同じ大工の手によるものだとわかりました。

そして、まるで「さて、君はどちらのデザインが好み?」と棟梁がほくそ笑んでいるようで、たのしくなりました。

この時、寺院伽藍のデザインには、無限の選択肢があることを知りました。

 
つまり、伽藍は周囲の環境や例えばバリアフリーのような時代の要請、お客様の好みに合わせてデザインするべきなのです。ただ、この方法は責任が重く、若い頃は、完成まで緊張の連続でした。

幸いにも最近は、スタッフの数が増えたおかげで、外観透視図を描き、模型を作り、デザインを検証しながら設計を進めることができます。うれしいことです。


「匠明」は、江戸時代にできた木割りのルールブックです。とても参考になる本だと思います。

しかし・・・
迷った時の参考にしたり、造り手と共有できるルールではあっても、絶対のものではありません。
伝統は「こういうものだ!」と、紋切り型に陥れば、時代の要請に応えられなくなり陳腐化します。それでは、次世代に引き継がれません。

創造者たるものは、自分の感覚を磨き、オリジナリティのあるデザインを試行錯誤していくことを忘れてはいけません。
所長 菅野良司